会長挨拶

「化学工学で新しい社会づくりを」


会長 石戸 利典

 阿尻先生の後を受け,2020年度化学工学会会長を拝命いたしました。私は発電用ボイラー,プラント建設,橋梁,産業機械,ジェットエンジンなどを扱う重工業会社出身で,近年化学工学と接する機会も増え,今回ご縁があって拝命しました。企業人,エンジニアとしての視点から学会に貢献できればと思っております。

 今年1月にスイスの大学で世界のPower Generation,Oil & Gas,Propulsion(ここでは航空機用)に関わる企業の技術のトップや大学の先生方が集まって「Future」を議論するForumがあり,私も講演し議論に参加してきました。場所がヨーロッパということもありますが,驚くことに議論は脱CO2,水素一色でした。その議論の中ではデジタル変革は当然のように語られ,想定されていました。そして2月に入り(この原稿は今2月末に出稿しつつありますが)新型コロナウイルスの感染拡大が私達の生活,社会活動に大きな影響を与えつつあります。化学工学会では3月に予定されていた第85年会及び学生発表会の開催自粛を迅速に決定するなど,ウイルスとの戦いに於いて社会的な責任を積極的に果たしているところです。ここでも社会全体としての変革が必要のように思います。

 本来科学技術とは人々の幸福や社会のために資するように使われるものだったのが,昨今では科学技術によってつくられた環境に社会や人間が合わさなければならなくなっています。温暖化は科学技術を野放図に使った結果とも言え,それに大変な思いをして対応しなければならなくなっています。このままではまずい。地球が,生態系がそして社会が悲鳴をあげている。今こそ新しい社会と科学技術(化学工学)のあり方を考えなければならないとの思いが広がり,化学工学会では昨年APCChEにおける札幌宣言で「Sufficiency」の考え方を掲げました。健全で良質な社会を実現するには何が必要かを考え,化学工学会が新しい社会づくりに積極的にかかわり貢献して行こうという思いです。

 2020年度の化学工学会の重点施策はVision2023に向けたこれまでの活動を引き継ぎつつ,上述の新しい動きも踏まえ以下の3つの視点で掲げています。

1)社会と化学工学会
社会の変革に繋がらない科学技術の実装は意味がない時代となっている。社会システム全体を見て,変えて行こう。学会の枠を超えて手を結んで。
1-1)システム全体を構想し社会実装を推進
1-2)社会への貢献(例:SDGsと化学工学)
1-3)社会への発信の強化

2)人材育成,人材活用
社会が求める新たな化学工学の育成・実践基盤の構築に向けて。
2-1)新たな「化学工学教科書」の刊行及び有効活用に向けた働きかけ
2-2)幅広い世代が化学に触れ,興味を持つ仕掛け,活動の推進
2-3)ダイバーシティの推進

3)イノベーションと社会
脱炭素社会の実現,デジタル革新による創造社会(Society5.0)などの実現には真のイノベーションが必要。Life Cycle Assessmentの視点が重要。
3-1)再生可能エネルギーの本格的活用等にともなう産業構造変革に対する化学工学の貢献
3-2)化学製品設計・製造・プラントへのAI,DXの導入に向けた貢献

 これらの重点施策の展開の仕方ですが,例えばVision2023で提案された施策の具体化,あるいは水素社会実現や各産業(化学,鉄鋼,セメント等)での脱CO2化,リサイクルに向けた新しい社会システム,産業システムの検討に化学工学会として貢献すべく,個別に産学の検討チームを編成し,課題解決の構想・システムを検討し,その実現のKeyとなるBreak-through Technologyを見極める活動を進めることが出来ればと思います。次にその活動の輪を他の学会に広げ,必要に応じて産官学コンソーシアムを創成し,国の助成も得ながら社会実装に繋いでいく,そのような具体例(好例)を重ねて行ければと思います。この活動が新しい社会づくりへの一歩となり,「Sufficiency」の展開にも繋がると考えます。

 若者たち,学生たちは今 様々な社会の課題を知り,そしてデジタル技術,シミュレーション(ゲーム)感覚を自然に身に着け,自分たちは何をすれば良いか,どうすれば貢献できるか考え,なんでもやってみようと思っています。自己研鑽も積んでいます。化学工学が次の社会創出の主役となり社会に発信すれば,そういう新しい世代の優秀な若者たちも化学工学会の活動にどんどん参画してくるでしょう。皆さん是非いろいろ議論をして一緒に取り組んで行きましょう。

(最新の会長メッセージは本部活動通信の方もご覧ください)